株式会社小草建築設計事務所

Story 02

大正ロマン建築と
モダンデザインの融合

[ごうぎんカラコロ美術館]

Scroll

Outline

 山陰合同銀行北支店の新築移転に伴い、旧支店を「ごうぎんカラコロ美術館」として再利用するためリニューアル工事をおこないました。この建物は大正15年、当時の八束銀行本店として建てられ、その後、山陰合同銀行北支店として地域に尽くし、現在もなお、約100年にもなる歴史を刻みながら当時の面影を伝える貴重な歴史的建造物です。

1
2
3

Photo:1.大正15年竣工時 外観2.大正15年竣工時 内観3.改修前東側壁面

2つのテーマで
過去と現代を結ぶ

 このリニューアル工事において掲げたテーマは、
①「歴史的建造物の保存と新しい時代の要素をいかに調和させるか」、
②「建築当時の面影を残しながら、耐震補強をどのようにおこなうか」の2つでした。

 ひとつめの課題については、すでに解体されていた旧倉庫棟の撤去部分がむき出しになっていた東側の壁面改修に焦点を絞りました。当初、銀行側からは、表側のデザインと同じようにリニューアルしてほしいという声もありましたが、大正、昭和と続いてきた建物の歴史が現代に継承されたことを表現するため、今の時代を象徴するガラス、金属などのモダン素材を使い、また現代の大切な要素でもある機械(エレベーター)を組み込むデザインを提案。ふたつめの耐震補強については、建築構造家の協力のもと、大正時代から続く外観を壊すことなく耐震性能を高める新たな工法を採用しました。

耐震強度と
モダンデザイン

 先述のとおり、モダン素材による現代的なデザインで設計した東側壁面に対し、現存している大正期の部分については、そのままの姿を保持したまま耐震強度を上げるという、いわば真逆ともいえる2つの手法を融合させることが大きなポイントになります。

 旧倉庫棟の接続面がむき出しだった東側には、スケルトン式のエレベーターと、外壁通路部分に金属製の骨組みとガラスを組み合わせた「スクリーン」を設け、既存の外壁とは違うまったく新しい表情を与えました。対する既存部分には、開口部の内側に厚板のスチール製格子パネルをはめ込む耐震工法を採用。パネルに空けた穴から自然光を取り込みながら、耐震強度を示すIs値を30%向上させることができました。

1
2
3

Photo:1.スケルトン式エレベーター2.ガラスと鉄骨の耐震構造設計3.強度とデザインを融合した格子パネル

1
2
3

Photo:1.趣を活かした照明器具2.大正ロマンを伝える内装3.当時の面影を残す大空間

 内装については、柱や大理石のカウンター、天井や装飾細工など、建設当時の面影を残しつつ、ガラスの手すりなどの新要素が既存インテリアの邪魔にならないよう心がけ、かつての銀行オフィスが格調ある美術品の大空間に生まれ変わりました。また、夜にはライトアップもおこない、大正期、現代と、それぞれの表情が楽しめる光の空間となり、また近くのカラコロ工房と連携することで、松江市中心部の夜景景観にも貢献しています。

対比させることで
それぞれの個性を活かす

 歴史的建造物のデザインというのは、その時代の背景があって成立するものだと考えます。「ごうぎんカラコロ美術館」も同様に、当時の造りを模倣するのではなく、あえて今という時代が自然に感じられる洗練された要素と組み合わせることによって、ひとつの建物の中に歴史の継続性が生まれるのです。そしてそのふたつの手法を対比させることが、それぞれの時代性やデザイン性を際立たせることになるのです。「ごうぎんカラコロ美術館」は、そうした建築家としての考え方を明確に打つ出すことのできた思い出深い作品となりました。

1
2
3
4
5
6
7

Photo:1.ガラスと鉄骨の現代設計2.歴史の重みを感じる正面外観3.重厚な空間演出を感じる内装4.当時のままの木製玄関5.デザイン性に優れた格子パネル6.大正ロマンにあふれた独特の外観7.対照的な近代モダニズム建築の外観

Other Stories