Photo:1.自然を生かしたスキップフロア形状の社屋2.木材で大空間を実現した構造体
土地・環境に
優しい設計を
傾斜地にあたっては、切土や盛土などをおこない、敷地を平面化した状態から建造物を建てる方法も考えられますが、今回は敷地をそのまま活かし、その傾斜に沿ったスキップフロア形状の建物を採用しました。また住宅地という立地に合わせ、建物高を低く設計。これは周囲に圧迫感を与えないための配慮でもありました。
木造建築というのも、当初から本プロジェクトのコンセプトにしていたものです。社屋建築に木造というのは珍しい手法ですが、「ごうぎんカラコロ美術館」改修時以来の構造家の尽力もあり、木造でありながら柱のない大空間を自信を持って提案することができました。
強度とデザイン性を両立
木造の大空間を実現するため、その重要な構造体となっている木架構を現しとして仕上げているのも、設計上の大きなポイントです。この材料をLVL木材にすることでコストを抑えながら、高品質な木造住宅のような温かみのある空間構成としました。
また、社屋の顔ともいうべきガラス面で構成したオフィスの開口部ですが、強い風圧などにも十分耐えられるよう、木と鉄のハイブリッドで設計してあり、その開放部の両サイドに設置した鉄骨部分も空間のアクセントになっています。このように強度のための構造体を露出させるという手法が、そのままデザイン上のポイントになるのも大きな特徴になります。
Photo:1.開放的な吹き抜け木製階段2.単板積層材(LVL木材)を確認する小草代表3-4.構造設計から生まれた大空間の木造設計
外壁はガルバリウム鋼板を採用、屋根は敷地の傾斜とほぼ同じ勾配を持たせることで、周辺の地形に溶け込ませる形状としています。また、敷地の段差を活かして床面を浮かせるように設計してあることも、外観上の特徴です。敷地の傾斜をそのままにしたのは、昔からあるカタチを壊したくないという思いがあるからで、例えばその土地に樹木があれば、なるべくそれを活かした設計に落とし込む等、そういう部分へのこだわりも、建築物を環境に最適化させていく手段のひとつだと考えています。
働く人々の
癒やしとなる空間設計
住宅地に社屋を建築する場合、敷地いっぱいに擁壁を立ち上げ、土地のすべてを使えるようにとの要望も多いのですが、今回は温かみのある木造社屋に合わせて、外にもゆとりが感じられるよう外構面を広く取る設計を提案させていただき、それが実現できたことも良かった点です。内にも外にも木や緑といった自然の要素が取り入れることは、ここで働く人々にとっての癒やしになると考えたからです。
環境、歴史、文化といった、その土地に関わる要素のすべてを建築に落とし込み最適化する。それが全体を通して大切にしてきた考え方ですが、本件の土木コンサルタント事務所様をはじめ、古民家改修の奥出雲町様、カラコロ美術館の山陰合同銀行様と、理解あるクライアントとの出会いも、良い建築、良い仕事のための大切な要素であることを改めて感じます。
Photo:1.木や緑を取り込む大空間の木造建築2.構造計算から生まれた木材シルエット3.自然傾斜を利用したスロープ4-6.安らぎと開放感を与える木造建築社屋