株式会社小草建築設計事務所

Story 05

昔ながらの狭小地にゆとりある住空間を創造する

[狭小住宅O邸新築]

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 水の見えるロケーションに自邸を持ちたいというこだわりを持つ中で出会った狭小地。多くの制約がある中、様々なアイディアで上手く解決しながら夢を叶える設計事務所ならではの計画。近年問題となっている空き家・空き地の問題解決の一例にもなるケースとなりました。

テーマは
“水の見える部屋”

 以前から自邸を建てる計画があり、その際のテーマにしていた「水を身近に感じる家」という条件に合う立地になかなか巡り会えなかったのですが、松江市、特に橋北地区には、かつての城下町らしく、町屋造りの家並みの地域が多く、そのなかには空き地や駐車場がかなりあることに思い至りました。 町屋のような細長い土地は現代の住宅用地としては不向きで、それが空き家や空き地の多い原因でもあるのですが、そこにあえて挑戦したくなったんですね。この限られた条件の中で、どんなものが建てられるのか、実験的な意味合いも兼ねて、昔ながらの長屋が残る地域でも、こんな住宅が建てられるというモデルケースを示したいという思いがありました。水が見える場所に家をつくりたいという当初からのこだわりも譲れない部分でしたが、そういう土地は川沿いにあることが多く、幸いにもそんな挑戦をするための理想的な土地を見つけることができたのです。

Photo: 1.理想の眺望を実現したリビング 2.狭小地を活かした設計が分かる外観 3.水辺に佇む邸宅

厳しい建築条件を
木造でクリアする

 計画地は準防火地域に指定されているため、使用できる建材や開口部の仕様など、建物にかけられる制限が通常よりも厳しいものになります。一方で、対象地は商業地域に指定されており、建ぺい率が80%まで認められるため、土地一杯に建物を計画することができました。いずれにせよ、間口約5.3メートル、奥行約23メートルという極端に細長い土地だったので、できることにも限りがあり、この形状を活かした構法およびプランニングが大きな課題でした。

 構法については熟考の末、木造の2階建て住宅で計画。ただ、町屋のような細長い木造建築では、耐震強度を確保するため、柱や壁をバランスよく配置する必要がありましたが、窮屈な間取りにはしたくない。そこで、要所に必要な壁を収納や暖炉などの家具の一部として取り込むことで、オープンな空間を邪魔しないように配置し、同時に強度も確保するという計画としました。

 間取りについては、1階正面にピロティ構造の駐車スペースをつくり、生活空間をすべて2階に集約。中心となるリビング・ダイニングのある正面北側をパブリック、中央に中庭、家奥にあたる南側をプライベートの空間に分けた、コの字型の生活空間をデザイン。また南側のプライベート空間にも専用の階段を設けることで、建物全体が回遊動線となる構造になっています。

Photo: 1.構造強度と意匠性を叶える中央壁 2.インテリア性あふれる暖炉 3.ピロティ構造のガレージ 4.回遊動線の要となるプライベートエントランス

複雑なパズルのような
家づくり

 もうひとつの課題は、そもそものテーマ「水の見える空間をつくりたい」をどう実現するか?でした。正面北側を流れる、ゆるやかな川景色を楽しむためには大きな窓が必要不可欠。しかし、ここは準防火地域なので網入りガラスの防火窓を装備しなければならず、それではせっかくの眺望も台無しです。そこで、発想を転換し、リビング外のベランダ両側を防火壁として計画することを考えました。奥行約1.8メートルの大きな側壁になりましたが、これで条件をクリアし、透明ガラスにすることができる。さらにこの窓枠を頑丈なスチール製にすることで、先述した建物の強度を支える構造パーツとしても機能するよう、あらかじめ構造計算に組み込んであります。このように、ひとつの課題が他の問題と重なったり、逆に解決の糸口になったりと、複雑なパズルを完成に導くような、ユニークな家づくりを体験することができました。

Photo: 1.川景色を望むリビング 2.スチール製窓枠 3.複数の役割を持つベランダ外壁

労多くして功もまた多し

 暮らしてみての感想は、ひとこと「快適そのもの」です。立地上、一般的な間取りとは正反対の“北側リビング”の間取りになりましたが、常に人の集まる場所なので、冬場も暖かく、空気も循環して結露の心配もほぼない、とても住心地のよい空間になっています。まして夏の暑さが年々深刻になっている状況を考えると、「南向きにしておけば大丈夫」という従来の考え方は衰退していくかも知れません。それが今回、自宅を建てて実感したことであり、設計者としても、今後の依頼者への格好の提案材料になりました。

 また、松江市に点在する狭小地利用という観点からも、自身の「水辺に住みたい」というこだわりが端緒とはいえ、ひとつの解決策になるような、規格住宅にはできない、設計事務所ならではの家づくりができたのではないかと思っています。

Photo: 1.市街地ながら開放的な空間のバルコニー 2.狭小地を活かした設計 3.ユニークな構造 4.開放感と防犯性を両立する浴室 5.ゆったりと暮らせる広さを確保 6.“水の見える部屋”を実現したリビング

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