
Story 07
和魂洋才をテーマに老舗和風旅館を改修
[大橋館改修]
Outline
老舗の伝統と現代性と
マリアージュする
これは以前に改修を手がけた「野津旅館」の仕上がりを気に入っていただいた「大橋館」の若旦那・ジェームス氏から声をかけられたのがきっかけでした。改修前の「大橋館」は、ロビーをはじめ各所に段差が目立ち、また部屋内に浴室がなかったりと、周辺旅館の中でも昔ながらのスタイルの旅館。また当時はインバウンドが注目され始めた時期でもあり、外国人観光客へも強くアピールしていきたい等、今の時代にマッチした和風旅館へのリニューアルが改修テーマになりました。



Photo: 1.仕上がりに満足そうな施主様と 2,3.改修前の大橋館
旅館のこだわりを尊重した
それぞれの改修ポイント
改修ポイントは、昭和45年築の鉄筋コンクリート造6階建て本館の4、5、6階の客室と、2階・3階宴会場、そして鉄筋コンクリート造5階建て新館ロビー部分の3つ。
まず、客室については、各フロア5部屋から4部屋に減らすことで、それぞれの部屋にこれまで以上のゆとりを確保し、さらに全室のバリアフリー化を実現しました。
- 本館客室
- 小泉八雲が松江の滞在中に宿泊していた「富田屋」ゆかりの旅館として知られる大橋館だけに、「大橋の眺めが引き立つようなリニューアル」という強い要望もあり、特に大橋に近い角部屋「展望温泉風呂付き客室」には、湖畔景色が楽しめる部屋風呂が目玉となるよう、大きな開口面を設計。このガラス面には外からは中が見えない特殊なガラスフィルムが施してあります。ここに設置された丸型の陶器風呂はジェームス氏がこだわって選んだものでもあり、景色とともに浴槽も違和感なく周囲に溶け込むよう、シンプルな空間デザインを心がけました。
眺望をメインにした大橋川沿いの2部屋に対し、市街地側の客室は外国人宿泊客をメインターゲットに、小上がりの畳コーナーや建具(障子)など、外国人に喜ばれる“和”の雰囲気を前面に出すことで、日本のライフスタイルを手軽に体験してもらえるような宿泊空間をデザインしました。





Photo: 1.ロケーションの魅力を引き出す客室 2.施主様こだわりの浴槽の展望風呂 3.改修前の客室 4.外国人宿泊客向けの改修をした客室
- 本館2階宴会場
- 従来通りの広い宴会場としてだけでなく、リニューアル後は朝食や小宴会などにも使えるよう、空間の大きさを自由自在に変えたいという要望がありました。そこで天井にレールを敷設し、取り外し自由の可動式パネルをそのレールに吊り下げる方式で、最多で9部屋分まで区切れるように改修しました。パネルのアレンジ自体はすぐに決まりましたが、それよりも、どのように区切っても、その空間が単独で違和感なく成り立つデザインに仕上げることに注力しました。





Photo: 1.空間を最大限に利用した宴会場 2.可動式パネル 3.パネルによって生まれた個室 4.改修前の宴会場
- 新館ロビー
- 改修前のロビーは、フロントからエレベータホールまで階段を利用しなければならないほどの高低差があり、改修はその高低差問題を解消するためのスロープ新設が大きな課題でした。スロープを設けるにあたり、車椅子が自走で上がるためには、5~6メートルという長い距離が必要になります。それを限られたスペースでいかに確保するかで苦心しましたが、最終的には需要の減っていた土産物コーナーを撤廃し、その空いたスペースを活かして、ロビー中央にスロープを配置することに。通常は壁際など目立たない場所に設置されるスロープを空間の中心に計画するという大胆な発想でしたが、こうすることで空間に個性が生まれ、何よりも車椅子の方から大変喜ばれる結果になりました。





Photo: 1.改修前のロビー 2.お客様からの高評価を伺う 3.中央に位置するスロープ 4.バリアフリーな空間となったロビー
改修で表現する“和魂洋才”










Photo: 1.和と洋、新と旧がマリアージュしたロビー 2.欄間をアレンジしたフロント 3.八雲とも親交のあった彫刻家荒川亀斎による欄間 4.受け継がれるもの大切に 5.和の意匠もモダンさを感じる 6.水の都を存分に楽しめる客室 7.上質感と使い心地の良さが際立つ洗面 8.お客様ごとのニーズに合った設計 9.こだわりの展望風呂 10.畳のおもてなしが外国人観光客に好評な客室